猫にはつらい長期維持のお話

 熱帯魚飼育をはじめたばかりの方に向けた内容としては、あまりピンと来ないかもしれないので、しばらく飼育をされた方に向けた、水槽の長期維持に関するお話です。と言ってもこれを御覧になっている始めたばかりの皆さんも、魚を飼っていればいずれは経験することでして、今から水槽の長期維持に関して知っておくのも良いかなと思います。そういう方でも読みやすいように書こうと思います。
 水槽の普段の世話やメンテナンスについてはよく情報を見かけますが、長期維持に焦点を絞った情報はあまり見かけないですよね。ありがたいことに、掲示板でそのお話が出ていまして、それについて詳しいレスなどをたくさん寄せていただきました。この機会にそれをわかりやすくまとめておこうというコンセプトです。
 と言いつつ、私がよくわかっていないお話が多く(笑)、掲示板で伺ったことや、なんとか頑張って調べた事が主な内容です。ですので、今のところここまで調べがついていますよとか、現在わかっていることからこのような予想が立ちますよというような記述になっています。もちろん嘘とわかっていて書いたりはしませんが、あいまいな部分もありますので、何かお気づきの点がありましたらご指導ください。
 では,長期維持のお話、始まりです。

※条件:以下で対象としている水槽は、魚中心で、基本的に肉食じゃない小型魚(最大でも20センチくらい)、底物用にそれなりの厚さで底砂を敷いて、水草も底を隠さない程度に植えてある水槽という前提です。魚に対して水草の割合が非常に高く、水草育成用に二酸化炭素や肥料などを定期的に添加している水草水槽や、ベアタンクで飼育される大型魚、大量の生餌やエネルギーの高い餌をあげる飼育方法などは対象にしていません。
 おそらく小型の底物中心の方や、熱帯魚飼育をはじめたばかりの方の水槽に多いような環境を想定しています。

※ご注意:以下の記述はほとんどが掲示板に寄せていただいた情報と、文献調査によって書かれています。そして、私の調査の途中では、文献ごとに違う記述の場合もありましたので、そのあたりに関してはどちらを採用しようかと悩みました。ですので、非常に危うい部分には”らしい”とかそれなりな書き方をしておりますので、そこはご容赦ください。それと、いつものごとく化(科)学的に厳密な言葉の使い方などはわかりませんので、私の言いたいことが伝わるということに重点を置いて書いてみました。


■水槽の一生は?
 昔、あれこれにも書いたことがあるのですが、私の思う水槽の一生って、こんな感じなんです。

水槽をセットし立ち上げ、魚を入れる(初期

水質がころころ変わり、魚にとっては危険な時期(不安定期

アンモニア、亜硝酸が出なくなり水質の変化が少なくなり、魚も安心(安定期

一般に”水が古くなる”と言われる環境で魚がぽつぽつと死ぬことがある(低迷期

水質が極端に傾き、魚を飼っていられなくなる(崩壊期



 という感じで私が勝手に名前を付けて分けたわけですが、長期間同じ水槽を維持された方であれば、大体似たような状況に遭遇したことがあるように思います。水槽によって様子が違いますので、安定期がものすごく長い幸せな方や、逆にそれがほとんど無く、崩壊に突き進んでいった不幸せな方もいらっしゃると思いますので一概に期間の長さを決めることは出来ませんが、こんな感じで水槽は遷移していくのだろうなと思います。
 コケの発生などを見ているとわかりやすいですね。初期から不安定期には、茶ゴケ、安定期には緑のコケ、水が古くなってくると、黒髭ゴケなどが出やすくなるように思います。

■どんな話をしましょうか?
 初期と、不安定期は”猫でもわかる立ち上げ話”に書きましたので、それはそちらを見ていただくとして、今回のお話の主題は、どうすれば安定期を長く出来るのか?、もしくは低迷期をそれなりにうまく乗り切って、魚を死なせずに、崩壊を防ぐのか?と言ったところです。
 安定期や低迷期においても、水槽内ではさまざまな変化が日々おきています。それを全部洗い出すのは難しいですから、とりあえず、大きな変化として、水のpHの降下の仕方に注目してみることにします。
 水槽を長期維持していくと、一般的に水のpHは下がって行きます。理由として考えられる項目については後から説明しますが、水槽の維持期間が長くなるに連れて、pHの下がり具合が次第に大きくなるのではないかと思われます。なぜそんなことになるのか、掲示板でのお話の中で疑問をもったことから、このようなコンテンツが出来たというわけです。

■どうして水槽のpHは下がるんでしょうか?
 これがわかれば、その原因を取り除けばいいだけですから、ある意味簡単なんですが、魚を飼育していることとの兼ね合いで簡単には行かないんです。それに関して順を追って説明しようと思います。
 まず、pHとは何かということですが、それは、”猫でもわかる水のお話”で書きましたように、水素イオンの濃度を示しています。簡単に書きますが、水中の水素イオンが多いと水は酸性(pHが低く)になり、少ないとアルカリ性(pHが高く)になります。つまり、pHが下がってくるという現象は水中の水素イオンの量が増えるということです。水中の水素イオンが増えるなんて、いきなり言われても良くわからないですよね。多少の語弊はあるかもしれませんが、言い直しますと、水に溶かすと酸性になる物が水槽に増えると水も酸性になる(pHが下がる)って思えばと良いと思います。
 では、水槽内に発生して、水に溶かすと酸性になるものって一体なんでしょうか?掲示板で寄せていただいたり、私が調べたりしたものだけですが、その候補を上げてみたいと思います。

●硝酸塩
 ”猫でもわかるろ過のお話”で説明しました硝酸塩です。与えた餌や魚の排泄物、水草の切れ端などのゴミから出るアンモニアが硝化によって硝酸塩に変わるという生物濾過のプロセスによって生み出される物質です。大雑把に言いますが、安定期以降ですと、水槽内に発生するアンモニアの量が硝酸塩の量を決めるといってよいと思います。アンモニアの発生源はいくつかありますが、魚中心の水槽ですと、主に餌が魚に食べられて、そこから排出されるアンモニアが一番の発生源ではないかと考えられます。つまり、餌の量や内容によって、硝酸塩の量が決まると考えてよいと思います。

●栄養塩
 また難しい言葉が出てきましたが、この栄養塩というのは、簡単に言うと、餌の残りや水草の切れ端など、水槽にたまるゴミを分解する微生物が、分解時に排出するものと考えると良いと思います。イメージとしては、農家などで、家畜の糞や枯れた草などから、肥料を作るのはわかりますよね。それが水槽の中で、魚の糞や枯れた水草などを利用して行われていると考えていただければよいと思います。上で紹介した硝酸塩もこの仲間ですが、とりあえず別にして説明しておきます。硝酸塩以外にリン酸など、植物の成長に使われる肥料分となるような物質の総称と思っていただければ良いと思います。

●硫化水素
 本当に難しい言葉が出てきますね。物質の特徴よりもどうして出てくるのかということがわかっていただければ良いですので気軽に読んでくださいね。ということで、硫化水素です。これに関しては、”猫にはつらい濾過のお話”のところで、少し触れていますが、嫌気的な領域で発生する物質です。理屈はさておきまして、水槽内には水の流れが極端に悪いところが出来ることがあります。それが締まってきた底砂だったり、詰まってきた濾材だったりするわけですが、その中でバクテリアの働きによって、発生することがある物質です。

●二酸化炭素
 水槽内には生き物が居ますから常に呼吸し、二酸化炭素を発生させます。魚はもとより、水草、ろ過バクテリア、その他水槽の中で活動する微生物にいたるまで、基本的には酸素を呼吸し二酸化炭素を排出します。水草を育てるために、水槽に二酸化炭素の添加をされたことのある方でしたらお分かりと思いますが、水槽の水は二酸化炭素が溶け込むとpHが下がってきます。つまり、水槽内で二酸化炭素が発生してもpHを下げる要因になってきます。
以上、水槽で発生して、水に溶けるとpHを下げる物質をあげてみました。おそらく全部ではないのでしょうけれど、今のところ調べられたのはこれだけです。でも、これだけでもなんだか大変な気がしますが、さらに追い討ちをかけるようなことも起こるんですね。それが次です。

●pHが下がるのを助けるもの
 ”猫でもわかる水のお話”で書きましたが、pHの下降は水槽にあるpHを下げる物質の量だけで決まるわけではありません。その他にもpHを左右する要素としてKHが挙げられます。簡単に言うと、KHが小さければpHの変動は大きくなりますので、今回の場合には、KHが低ければ、pHも下がりやすくなります。KHを下げる(上げる物質を追い出す)物質としても二酸化炭素などがあります。その割合が増えれば、ますますpHは下がりやすくなっていくんです。

■長期維持のときには?
 水槽を長期維持したときには上のような物質はどんな風に発生して、影響を与えるのか考えてみます。


●硝酸塩について
 この物質が出てくるのは仕方がありません。生物濾過が出来上がっていれば、餌をあげれば出てきますので、それを防ぐのは無理です。ですので、水槽にたまり過ぎないように適度に排出するというのが基本的な対処方法になってきますが、水換えによって排出する(薄める)方法が現在では普通です。他にも水草が吸収したり、嫌気濾過での処理などありますが、対象が水草水槽ではないですし、一般的に普及していない方法ですので、考えないことにします。安定期を過ぎれば、短期的に見ても長期的に見ても、硝酸塩の発生量は餌を変えない限り変わらないと考えられていますので、これに関しては短期長期にかかわらず、水換えでせっせとくみ出すというのが基本の対策です。ただ、普通、水槽は立ち上げてから徐々に魚が増えていくものですから、餌も増えることが多くなりがちですので、そういう飼育のセオリーから考えると、長期になると硝酸塩の量も増えることが考えられます。

●栄養塩について
 水槽にたまるゴミを分解する微生物が作り出すのが栄養塩です。一般的に水槽は底砂掃除などしていても、長期維持するといろいろなところにゴミが多くたまってきます。それを分解するのですから、長期維持された水槽のほうがより多くの栄養塩が発生すると思われます。また、上でも書きましたが、長期維持すると魚が増え、餌も増え、ゴミの蓄積も多くなりがちですので、長期維持したほうが、栄養塩も増えそうに思います。ただし、ゴミもある一定量を超えると舞い上がり、ろ過器に吸い込まれやすくなりますので、ある程度のところで頭打ちになると思われます。

●硫化水素について
 水槽内に酸素が行き渡らない(水が通りにくい)部分が出来ることが硫化水素の発生原因です。セットしてからしばらくの水槽は、底砂などは比較的間があいており、またろ材も綺麗ですので、通水は良いことが多いです。それが長期維持になりますと、底砂が締まりがちになり、ろ材にもいろいろなものが付着して内部まで水が通りにくくなってくるのはイメージとしてもわかると思います。そのような状態の場所は嫌気領域になりやすく、条件が整うと、硫化水素の発生源になってしまうことが考えられます。ですので、長期維持するほうが、硫化水素は多く発生するようになるのではないかと思われます。


●二酸化炭素について
 魚を含め、水槽内に存在する生き物のほとんど全ての呼吸によって発生します。水槽は長期維持するほどに生き物が増える傾向にあります。魚や水草を追加することも多いですし、与える餌が増えると、発生するバクテリアや微生物などにも、同様に餌が増えることになります。またゴミなども蓄積していきますので、ますますそれに拍車がかかります。基本的には生き物は増えて、ある程度で一定になっていくと考えられると思います。そうなるとやはり二酸化炭素の割合も長期維持するほどに増していくと予想されます。

 このように、これらの物質は水槽を長期維持していくことで増えていく傾向にあるようですので、時間が経つにつれて、同じように水換えをしていても、pHが下がりやすくなるという現象が起こるようです。これがよく言われる、”水が古くなる”という状態ではないかと思います。

■長期維持のpH低下の対策は?
 これらの原因を踏まえて、pHを低下させないようにするにはどうすればよいのか、なるべく長期間安定した水槽にするにはどうするのかというところを考えてみたいと思います。ここから先が、実際に飼育では重要なところなので、今までの部分が良くわからなくても、気にしないでくださいね。

●上記のような物質が発生して、水に溶けてしまった場合には、それを水と一緒に排出して新しい水を入れて薄めると言うのが基本です。pHが低くなり過ぎないようにするには、水換えをするのが、直接効果があるところだと思います。ただ、長期維持している水槽をお持ちの方はご存知かもしれませんが、水換えしたのにすぐにpHが落ちるようになってきます。そうなると根本的に解決する必要が出てきます。

●主に栄養塩、二酸化炭素の発生のおおもとは、上で書いたとおり、水槽の中にたまっていくゴミなどです。ゴミが増えることでそれを分解する生き物が増え、さらに分解して出来る物質がたまっていきます。ですので、まずはゴミを除去するというのが手っ取り早いと思います。普段の水換えで底砂掃除などもやられると思いますが、それでは足りないと言うことですね。水槽をひっくり返せばわかりますが、底砂の下のほうなどに泥のような汚れが大量にたまっています。それを吸い出すことは、普通の掃除では難しいです。また濾過層にも泥がたまってくることも良くあります。水槽をあまりいじらずに、それらを除去する方法はちょっと思い当たりません。水槽を半分リセットのような状態にしなければいけないと思いますが、それって長期維持と言えるのかどうか…(^^;。また、濾過層に関しても泥抜きなどの作業が必要と思われます。とりあえず、ろ材についたろ過バクテリアをそのまま維持しつつ、水槽のほうをある程度綺麗にする方法を考える必要がありそうです。

●硫化水素の発生源は嫌気領域ですから、これに関しては水槽の底砂の中まで水がきちんと回るように、締まった場所が出来ないように工夫すればよいと思われます。具体的には吹き上げ式底面濾過のような方法で底砂の中の通水を確保するとか、たまに底砂をひっくり返してみるとか、そういう対策が考えられます。また濾材のつまりによる嫌気領域に関しては、定期的に飼育水で濾材を軽くすすぐということも効果的ではないかと思います。

■実際にやるには?
 以上、いろいろと書いてみましたが、実際にpHの低下割合が大きくなってきたときに、上記のことが出来るのか?と疑問に思います。これらの方法、普通の飼育として考えるとちょっと頭をひねるところがありますよね。例えば底砂や水槽にたまるゴミのようなものにも濾過バクテリアが住み着いているということですから、リセットのようなことをすると通常の生物濾過のバランスが崩れることも考えられます。濾材を洗うことも同様です。ですので、それらの兼ね合いを考えつつ、一度に全部やらずに底砂の1/4ずつとか、ろ材の半分だけとか、”こまめな大掃除(笑)”をするのが良さそうに思います。
 また、今回は水草のことやベアタンクの効能などは話題にしませんでしたが、水草水槽など、植物(コケなども含む)が非常に元気に育っている水槽では、硝酸塩、栄養塩などをかなり吸収してくれる場合もあるようです。水草に吸収させることで実際に水槽を維持されていた例をアスカさんに教えていただきましたので、それを以下に紹介しておきます(掲載用に猫丸が少し加筆修正しております)。
 「草花用肥料に書いてあるN-P-Kの値は、硝酸(NO3^-)・リン酸(PO4^2-)・カリウム(K)の略称です。要するに、NO3^-とかPO4^2-は草花の必要栄養素な訳です。「んじゃ、水草をガンガンのばしちゃえ!」ということで、実際に60cm・90cm水槽で、餌やりとカリウム供給のための水草肥料(ブライティKなど)の添加、水足し(水変え無し)で試したところ、少なくとも9ヶ月間はコケも出ず、安定していました(但し、CO2添加と光量upはしていました)。大磯で外部ろ過、水草はエキノ・各種有茎・バリスネリア・クリプト各種、モスでした。リシアは浮いてしまって始末に負えなかったので、最初だけ使っていました。魚はカラシン(90cmは数十匹〜百匹くらいかな?)とオトシンクルス。餌はデュプラリン(S)と冷凍赤虫を適量でした」
 とのことでした(アスカさん、貴重な情報ありがとうございます)。水草をきっちりと育成し、硝酸塩などを、水換えで排出することなく、水草の栄養にすることで除去するということも可能だということが、この例から分かります。長期維持の方法の一つとして、水草の積極的な育成を取り入れてみるのもひとつの手段になるわけです。こういう事を考えてみるのも面白いですね。
 また、ベアタンクでしたら常に綺麗に水底を掃除できますので、ゴミがたまることも少なく、事前に硝酸塩、栄養塩などの物質の発生を防止してくれる可能性もあると思いますし、底砂が無いので、嫌気領域も出来にくいと考えられます。
 長期維持のみを考えると、水草水槽やベアタンクのほうが有利な気がします。
 とはいっても、水草水槽でもなく、ベアタンクでもなく、とにかく魚が飼いたくて、なんとなく寂しいから底砂を敷いて、たまに気に入った水草があれば、ちょっとだけ育ててみようかなと考えて飼育される方は多いと思います。そういう場合には、長期維持に関して、少し考えてしてみるのもよいかもしれませんね。

■これだけではないと思います
 今回はpHの低下のみに焦点を当てましたが、長期維持した水槽には、例えば器具の老朽化による問題とか、考えないといけない要素が他にもあると思いますので、これで長期維持に関しては全て解決というようには、考えないでくださいね。またpHが下がることというのはいくつも起こるであろう現象のひとつに過ぎません。pHが下がっても問題ない場合もありますので、pHがなぜ下がったのか?(それが魚にどんな影響を与えるのか?)ということのほうが大切ですので、その点をきちんと見極めて対策を施すようにしてくださいね。

■最後に

 説明の中に難しい言葉なども出てきたので、少しわかりにくかったかも知れませんが、水槽の長期維持に関して今現在わかること、寄せていただいた情報をまとめてみました。これを足がかりにして、いろいろと調べたり、水槽を観察したり、とにかく興味をもっていただけたら幸いです。

 掲示板で情報を提供してくださったり、この話題に参加してくださった、越後屋ポン太さん、アオさん、たま尾さん、イエローフィンボーシャさん、chi-toroさん、ありがとうございました。

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