猫にはつらい濾過のお話


 猫でもわかるお話のシリーズは、とりあえずアクアリウムをはじめたばかりの方に向けたコンテンツだったのですが、猫にはつらいお話の方はアクアリウムに使われる理屈などを少し理解された方に向けたコンテンツです。というか、私もよくわかっていないお話について調べた事をまとめたものという意味合いが強いですので、平気な顔して嘘を書きそうな気がしています(笑)。が、もちろん嘘とわかっていて書いたりはしませんので、何かありましたらご指導ください。
 とりあえず、今回は濾過のお話です。猫でもわかる濾過のお話のところで、詳しい話は省きますと言った嫌気性生物濾過(というか、硝酸塩の除去方法)について私なりの調べたこととか、それに対する意見とかを書いてみたいと思います。ということで、濾過に関する一通りの知識はあることを前提に書きますので、ちょっと難しいかも知れません。でも、私も素人なので、そういう意味で、皆さんにもわかっていただけるかなと思っています。それと、前提としては、淡水水槽で、なおかつ普通の趣味水槽で手の出せる部分までのお話ということに限定してみました。また、とりあえず、濾過の基本はわかるけど、それ以上のことには手を出しそびれている方にも少しわかっていただきたいという内容ですので、あまり気張らずに読んでみてくださいね。
 では、ちょっと小難しい(と思われる)硝酸塩の除去のお話、始まり始まり。

※ご注意:以下の記述はほとんどが文献調査によって書かれています。そして、調査の途中で文献ごとに違う記述がありまして…。そのあたりに関してはどちらを採用しようかと悩んだ部分があります。ですので、非常に危うい部分には”らしい”とかそれなりな書き方をしておりますので、そこはご容赦ください。それと、いつものごとく化(科)学的に厳密な言葉の使い方などはわかりませんので、私の言いたいことが伝わるということに重点を置いて書いてみました。

■硝酸塩って何でしょう?
 これは猫でもわかる濾過のお話のところで書いたのですが、普通の生物濾過での最終生成物です。と、不親切に書いても意味がないので、ちょっとおさらいです。猫でもわかる濾過のお話では、

 エサ・魚の排泄物・枯れた水草、etc… → アンモニア → 亜硝酸 → 硝酸塩

という過程を経て、比較的無害な硝酸塩を作り出すのが生物濾過です。というふうに説明しました。この過程には名前がありまして、硝化といいます。ということで、猫でもわかる濾過のお話で説明したのは、硝化作用による生物濾過の方法だったんですね。
 硝化によって、アンモニアなどの非常に有毒な物質を硝酸塩という比較的無害な物質に変えることができたので、それならそれで良いだろうなんて思うわけですが、人間は楽をするためには知恵を絞る生き物なのでそれだけでは満足できないんですよね。何が満足できないのかと言いますと、この硝酸塩は比較的無害とはいえ、たまりすぎると魚に悪影響があるわけで、水換えで取り出す必要が出てきます。そこのところがなんとなく納得行かないのでして、どうせ途中までやったのですから最後までやってしまおうというのが人情なわけです。
 それで、この硝酸塩をさらに変化させて、今度こそ水換えなんてことをしなくても水槽を維持できるようにしてしまおうという考え方がありまして、そのアプローチの一つが、脱窒バクテリア(仮にこう呼びます)による脱窒を水槽で行うことなんです。

■脱窒って?
 いきなり言葉だけ紹介してしまいましたが、この脱窒というのは、簡単に言ってしまいますと、硝酸塩を窒素に変えて空気中に逃がしてしまうということです。その働きをするのが脱窒バクテリア(と仮に呼びます)です。先ほどの変化に追加しますと

 エサ・魚の排泄物・枯れた水草、etc… → アンモニア → 亜硝酸 → 硝酸塩 → 窒素(空気中へ)

 ということ(青色の部分)になります。
 ここまで書いてしまうと何だか簡単に硝酸塩も除去できそうな気分になりますよね。硝化と同じように濾材にバクテリアを繁殖させて、それに硝酸塩を除去してもらいましょうというお話なのですから、これで一件落着ということになりそうなんですね。でも、そうは行かないから、これが、猫にはつらいお話になっているわけでして…。硝化と何が違うのかと言いますと、このバクテリアが脱窒を行うには硝化のためのバクテリアよりも厳しい条件が必要なことなんです。その条件については追々紹介しますが、とりあえず大きな特徴として、酸素を嫌うという性質があります。それで、これらの脱窒を行うバクテリアのことを、嫌気性バクテリアと呼ぶのが一般的です(ですので、アクアリウムの世界では、脱窒バクテリアとはあまり言わないのです)。また、脱窒を目的にした生物濾過のことを嫌気性生物濾過とか、ただ単に嫌気濾過と呼んだりもします。それに対して、猫でもわかる濾過のお話で解説した硝化を行うバクテリアは、酸素を必要とするので、好気性バクテリアといいまして、好気性生物濾過という事になりますが、普通に生物濾過といったら、硝化(好気性生物濾過)のことを指しますので、この呼び方はあまり一般的ではないように思います。

■嫌気性生物濾過って?
 上で書きましたが、脱窒を行う嫌気性バクテリアは、その仕事をするのに酸素がない方がよいという条件があるのですが、それ以外にも、働くにはいくつかの条件があります。まずは、もちろん硝酸塩があること。これがなければはじまりません。次に炭素の成分を持つエサがあること。ただし、炭なんかをドボンと水槽に入れてもだとダメなようです。炭素もそれだけではなく、嫌気性バクテリアがエサとして利用できる状態になっている炭素が必要なんです(このあたり、難しいのでこれ以上の説明はご容赦を…(^^;)。とりあえず、なにがしかの炭素成分(以下炭素源と呼びます。また、エサとして使えるという意味も含めて、有機炭素というふうにも呼ばれています)が必要なのだということで覚えてください。その上で話を進めますが、嫌気濾過を目指している水槽ではアルコールや、砂糖、デニボール(濾材でもあるのかな?)を炭素源として用いることが一般的なようです。さらに、光に弱い(らしい)ことなどがあげられます。
 上記のような条件を満たして繁殖した嫌気性バクテリアに飼育水を通しますと、そこで硝酸塩から窒素を生成してくれまして、めでたく水槽から有害な物質を追い払うことに成功するというわけです。
 ちなみに、嫌気性バクテリアについて少々補足します。嫌気性と言っても、酸素が全くないところでしか生きられない種類と、酸素があるときは酸素を使い、酸素が無くなると硝酸塩を使うとか、その場の環境によって生き方を変える種類とがいるそうです。ただ、酸素がない(少ない)領域でしか、脱窒をしないということは確かなようです。

■嫌気性生物濾過の実際の取り組み
 それで、理屈はどうあれ、現在の淡水水槽ではどんな感じでそれを実現するのかというのが気になるところだと思います。
 基本的な方法として、まずは普通に好気性バクテリアを繁殖させて、硝化が活発に行われる状態を作ります。そうすると、水中に硝酸塩が蓄積してきます。そこへ極端に酸素の少ない状態の水が流れる場所(嫌気領域)を作ります。その嫌気領域に嫌気性バクテリアが繁殖すると、そこを通過した水の中にある硝酸塩を使って脱窒を行い、窒素を作り、それを大気中へと放出します。これが一連の流れです。
 この嫌気領域を作るためにいくつかの方法が紹介されています。例えば、濾材ですが、表面の部分には好気性(硝化を行う)バクテリアが住み着きますので、そこで水中の酸素を消費してしまいますと、その奥まで酸素が届かなくなりますので、その奥は嫌気領域になったりするらしいです。また、人工的に流量を非常に少なくした場所を濾過層や水槽内に作り出してそこを嫌気領域にしてしまうという方法もとられているようです。さらに、水槽中で水の流れの少ない底砂の下の方や、よどんだ場所などが自然に嫌気領域になっている場合があるなんて記述も見つけまして、わざと底砂を多めに入れて、底面濾過によって微妙に水流を作って嫌気性生物濾過を行うという方法も見かけました。また、淡水ではないですが、海水魚飼育で使われるライブロックなども天然の嫌気領域を内部に持っているというお話です。
 とにかく、この嫌気性バクテリアの働く場所を確保して、そこにゆるりと水を流してやることで、酸欠状態を作り出し、脱窒を行うのが主流のようです。

■どうして淡水飼育で嫌気性生物濾過は流行らない?
 上のように書きますと、勝手に硝酸塩も分解してくれて、水換え無しで万々歳ということになりそうなものですが、現在の淡水のアクアリウムにおいては、あまり普及した方法ではありません。ここまで理屈がわかっているのになぜ普及しないのかと首を傾げたくなりますが、それにはいくつかの理由があると想像できます。
 まずは、嫌気領域を作るのが難しいということがあるようです。上記の方法はどれも、水流を極端に押さえることで嫌気領域を作ることに主眼を置いています。ですが、現状のフィルターではどれも流量が多すぎて、なかなか使い回しができません。さらに、水の流路を狭めるとか、ポンプの能力を意図的に落とすなどして、流量が落ちると、ゴミがたまって流路が完全に詰まったり、腐敗の可能性も高くなってしまいますので、丁度良い一定の流量を常に確保し続けるというのはなかなかに難しいようです。また、流速を落とすのではなく、底砂の中や、濾材の深層に嫌気領域ができるという考え方にしても、それが常に一定の体積を持ってきっちりと働き続けるように維持するのは大変みたいです。以上から、現状として、安定的に無酸素状態で、かつ、それなりの体積を持った嫌気領域を、水槽内や濾過層内に作り出すことはかなり難しいようです。
 さらに、嫌気領域をうまく作れたとしても次の問題が嫌気性バクテリアのエサ(炭素源)です。藻や水草などが炭素源をある程度は排出するらしいですが、それで足りない場合には、上にも書きましたが、アルコールとか、砂糖とか、普通水槽に入れない物質が必要になります。それらを嫌気性バクテリアにのみ消費させて、水槽の他の部分に流れていかないようにする工夫がまた難しいようです。一応、デニボールという、徐々に溶けるようにして炭素源を供給するものがありまして、それを利用される方も多いようですが、これは少し高価です。今のところ、安価で、安定的にバクテリアのエサを供給するのもやっぱり難しいみたいなんです。
 さらにもう一つ。嫌気領域として、酸素が少ない状態を作るわけですが、その場所の条件によって繁殖するバクテリアやバクテリアの行う働きも違ってきてしまいます。中には、硫化物を出すバクテリアが繁殖することがあったりして、そうなってしまうと水槽中に卵の腐ったような硫黄の匂いを発する物質が流れ込むことになります。これはあからさまにまずい感じです。
 もう一つ、この嫌気性バクテリアが仕事をすると一時的に亜硝酸が発生するとのことです。普通は脱窒の過程できちんと消費されるそうですが、なにかの都合で最後まで脱窒のプロセスを踏めなければ、水槽内の亜硝酸濃度が上がってしまう場合があるそうですので、好気性バクテリアがもう一度それを処理するはめになりまして、その処理限界を超えてしまいますと、せっかくの硝化サイクルも狂ってくるので危険です。
 それらを無害化、リスクの軽減をはかるために、嫌気領域から出てきた水をもう一度好気バクテリアが繁殖しているエリアに通したりと言った処理もされているようですが、それもやっぱり面倒なんですよね。
 このように常に安定して脱窒をし続けるシステムを個人レベルの淡水水槽で実現するには技術的、金銭的に、かなり難しいという事がありますので、やる方が少ないのではないかと思います。

■嫌気性生物濾過ってどうでしょう?
 実際問題として、嫌気性バクテリアによる脱窒は水槽維持に使えるのかどうかと言うことについての私の意見ですが、とにかく硝酸塩を除去したいというのが動機であるならば、現時点では必要ないと思います(ってこんな事を書いたら、この記事の意味自体が無くなりそうですけど…(^^;)。現在、水中の硝酸塩を取り除く方法として、主に水換えに頼っているわけですが、そのリスクである水質の急変と手間に比較して、上記のようなリスクや費用、手間を考えると、現状では明らかに水換えの方が勝っていると考えられると思います。そうすると、わざわざ大げさな設備と、硫化物や腐敗、亜硝酸の発生するリスクを負ってでも嫌気性生物濾過を積極的に取り入れる必要を現時点では感じません。また、嫌気性生物濾過を仮にしっかりと機能させることができたとしても、水換えには硝酸塩を取り出す以外にも役割(ゴミ掃除やリン酸などの排出)がありますし、新しく入れる水には、水槽に不足しがちな微量元素を補充する意味合いもありますので、実質的に水換えをなくするという事はできないのではないかと思われます。
 ただ、限定された条件や動機が違うのであれば、利点もあると思います。
 例えば気むずかしいシクリッドのブリーディングなど、一度繁殖行動に入ってからは水換えをなるべくしないでそっとしておく必要のある場合には非常に有効だと思います。特にディスカスの飼育などでは硝酸塩の蓄積によるpHの低下が早いことが多いですので、有効かも知れません。また、嫌気領域を積極的に作るのではなく、たまたま底砂の下部の水がよどんだところや、濾材の詰まったところで嫌気性バクテリアが働いてくれれば、硝酸塩の増加速度を遅くする効果は望めるかも知れないと思いました。
 そして、自己満足です(笑)。アクアリウムは趣味ですから、効率の良さやリスクを低く押さえることだけが目的ではありません。ですので、硝酸塩を嫌気性生物濾過で除去するということを飼育の目的にしてみるのもおもしろいと思います(これは私も機会があればやってみたいところです)。
 また、自然界では、普通に脱窒という事が行われており、生物と物質のサイクルに組み込まれています。水槽内でも、それになるべく近い方法をとることによって、魚にとってよりよい環境を提供するという意味合いもあるというご指摘もいただきました。現段階では難しい技術ではありますが、これが実現できれば理想の飼育環境へまた一つ近づくことができるのかもしれません。

 それと補足ですが、海水魚飼育ではかなり嫌気濾過に関しても進んでいるようで、ライブロックの使用や、その他の器具でもそれを目的としたある程度確立した方法論があるようです。単純に淡水に応用できるわけではないようですが、技術の進歩に期待したいものです。

■嫌気性生物濾過、硝酸塩の除去について、いろいろ
 ネットを調べていると、嫌気領域を作るということにかなりの情熱を傾けている方を見かけるのですが、それだけで満足していらっしゃるのがどうにも不思議でした。嫌気領域を作るのは良いのですけど、嫌気性バクテリアが働くには、それと同時にエサ(炭素源)が必要なはずなのですが、それも無しに、硝酸塩が減っているという結果を書かれている記述をたまに見かけました。HPのことなので、全部の条件を書いていないのかも知れませんし、何かしらの供給があったのかも知れませんが、別の要素(水草とか、エサの調整とか)で減っているような気がするものも見つかりまして、淡水水槽での嫌気性生物濾過というのは、なんだか手探りの状態なのかなと思いました。
 また、同じ理由で、濾材の中に嫌気領域を作るとか、底砂と底面濾過で嫌気領域を実現するという記述も見かけました。それも炭素源の問題はどうしているのか疑問でした。自然界では、水草の根などから炭素源が供給されるそうですが、何も添加していない水槽内で、果たして硝酸塩を完全に除去し得るだけの能力を発揮する炭素源が発生するのかどうかということについては、よくわかりませんでした。また好気バクテリアからの炭素源の供給があるという記述までありまして、このあたりに関してはかなりの疑問が残りましたので、また調べてみようと思います。炭素源がないと、基本的に脱窒は行われないわけですが、この供給方法についてはいまだに安価で確実な方法が確立されていないのではないかと思いました。
 ただ、通常の水槽のセットをしただけの無換水水槽も存在しているようです。ネット上の情報として、多く見られたのは、水草水槽です。ねこにはつらい長期維持の話→■実際にやるには?のところにアスカさんに教えていただいた具体例も書きましたが、水草の量を多く(活動を活発に)することで、水草の硝酸塩吸収能力が高くなり、その上で、魚の数(給餌量)を適正に保つことで、特別に脱窒のための設備を施さない状態でも硝酸塩を除去することができていたとのことです。ちなみに猫丸はそんなにうまく水草を育てることも、魚の数を押さえる忍耐もないので、意図的にそういう水草水槽を実践したことはないです(^^;。でも、アスカさんの例では、9ヶ月間、無換水(足し水のみ)で維持されたそうですから、水草水槽は硝酸塩などの除去の実践に、現状では一番現実的な選択肢なのではないかと思われます。

 と、炭素源に関しては、いろいろと疑問が残った今回の調査ですが、水草水槽に関してはかなり期待できるということがわかり、私も少しホッとしております。こんなコンテンツを書いたのに、全部疑問だらけで終わっては、さすがに情けないですので(笑)
そして、これで皆さんがこういう事に興味を持っていただければこの記事の役割も果たしたかなと思います。

■それ以外の硝酸塩の除去方法
 今回は脱窒をするバクテリアによる硝酸塩の除去について書いてみましたが、それ以外にもいくつかアプローチはあるようです。砂糖を水槽に添加して、それをエサにして繁殖する酵母菌にそれらの仕事をしてもらうという方法もあるようです。また、上で紹介したように、水草水槽などで、条件を整えれば、硝酸塩を一定のところに押さえることはできるようです。また、24時間365日、常に排水、給水を続けて魚を飼育するという方法も見つけました。これは水換えではありますが、常に少量の水を換えることで、通常の水換え時の水質急変リスクと手間を最小限にしていると言う点で、少し違うなと思いましたので紹介します。

■最後に
 理屈としても、ちょっと難しいお話でしたね。また、実現するとしても、淡水アクアリウムで、なおかつそれなりのお値段で使うための整った方策があるわけでもないようです。(ヤノシステムという方法が一応あるらしいですが、私は使ったことがないので詳しいことはよくわかりません)。とりあえず、今の段階では少し取っつきにくい話題ではあると思いますが、好気性バクテリアによる硝化という今の生物濾過のお話も、一昔前まではとても難しいことだったのですから、嫌気性バクテリアを使った脱窒やそれに代わる方法などが近い将来に一般化することも十分に考えられると思いますし期待しています。
 とはいえ、水換えを楽しみにしている私としては、手をかける部分が減ってしまうとすれば、何だか寂しい気もしますが…。
 
 今回、この記事を書くにあたり、Aquaristな招き猫さんの管理人のたま尾さんに多大なるご協力いただきました。ありがとうございます。

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