猫でもわかる濾過のお話
熱帯魚飼育を始めると、一番最初にぶつかる壁は”濾過”に関する話題ではないでしょうか?特に生物濾過です。よく、掲示板などで質問すると、「濾過バクテリアは…」なんてレスが結構頻繁に、しかも普通に出てきます。ですが、初めて熱帯魚を飼い始めた方に濾過バクテリアの話など分かるはずもなく、またそれをわかりやすく解説しているサイトを探すのもなかなか難しいですね。ということで、一般的に語られる濾過と水質のお話をなるべくわかりやすく説明してみたいと思います。まあ、学校では生物など捨てていた猫丸でもわかるんですから、きっとあなたもわかりますよ(^^) とりあえず、どこかの掲示板などで濾過の話題が出ても、ひるまないでお話ができる程度に理解していただけるよう書きたいと思います。初心者向けです。ですので、特殊な詳しいお話(例えば嫌気性バクテリアなど)や例外的な事例は省きました。また、基本的な事のみですので、それ以上のことは申し訳ないですが、お調べください。 |
■濾過って何でしょう? 素人感覚で”濾過”と聞くと、水の中のゴミをこし取るというイメージがありますね。私もはじめはそれしか思い浮かびませんでした。ですが、アクアリウムの世界での濾過というのは、「水質を魚の住める状態に保つ」という意味合いが強いと思います。そのあたりがつまずく原因の一つかなと思います。ですので”濾過”という言葉についての認識を、ここで切り替えておかれた方が、後々わかりやすいと思います。 では、「水質を魚の住める状態に保つ」というのはどういうことでしょうか?それは二つの要素があります。 一つは、濾過のイメージ通りです。水中にあるゴミをこし取るという役割です。やっぱり、ゴミが水中を漂っている状態というのはあまり魚には良くないようですし、見た目にも悪いですよね。ですから、それをこしてきれいにするのが濾過の大事な役割の一つです。これを”物理濾過”といいます。ですが、それだけでは魚が住み良い水になったとは言えないところが面倒なところでして。つまり、きれいに見える水でもそれだけでは良くないということです。こう思っていただければわかるかと思いますが、塩水も真水も外から見ただけでは無色透明、きれいなお水ですが、淡水魚を飼うには真水が必要です。塩分が混ざっているとちょっと困りますよね。それと同じように、水槽の水も、魚を飼ううちに、悪い物質が混ざってしまって、見た目にはきれいでもだんだんと魚が住み難い水になってしまいます。それをくい止める(悪い物質を取り除く)のが濾過のもう一つの重要な役目です。この役割を”濾過バクテリア”にやらせる方法を”生物濾過”といいます。また、濾過バクテリアを使わずに活性炭などに悪い物質を吸い取らせる方法を”吸着濾過”といいます。ちょっと難しいですね。とりあえず、「濾過バクテリア」と「生物濾過」という言葉をまずはセットで覚えてください。それと「活性炭」と「吸着濾過」という言葉もセットで覚えてください。今はそれだけで良いです。 では、3つの濾過「物理濾過」、「生物濾過」、「吸着濾過」について説明します。「物理濾過」と「吸着濾過」に関しては比較的わかりやすいので、はじめにさらっと説明します。その後で一番わかりにくいと思われる「生物濾過」について書きたいと思います。と、その前に先ほどから話題に出ています、悪い物質について説明しますね。 |
■悪い物質って、何? 水中に漂うゴミというのはイメージとして何となくわかると思います。魚を飼っていると糞をしますから、それが漂ったり、水槽に入れた水草が枯れて、その破片が漂ったり…。それはわかりやすいと思います。ですが、それ以外にもでてくるこの”悪い物質”というのは何なのか、説明します。 魚は糞をします(このときの糞というのは排出物という意味です。エラとかからも出るんです)。人間も同じですが、糞にはアンモニアという物質が含まれています。そして、このアンモニア、かなりの毒なんです。人間だって、これがいっぱいあったらかなりつらいですよね。魚も同じです。ですが、一つだけ違うのは、人間はトイレで用を足しますが、魚は水中でしてしまいますので、魚の場合には普段の生活領域にアンモニアがあるということです。それはかなり厳しい状態なんです。ファンの回っていない、くみ取り式のトイレで生活しろと言われているようなものですので、かなり嫌です。魚を飼っていると水中にどんどんアンモニアが増えてくるというのは、まさにそういうことなのです。やっぱり、それはまずいと思いますよね。ということで、このアンモニアが、1つ目の悪い物質です。 次に、アンモニアが変化してできる亜硝酸という物質も水槽に貯まってきます。どうしてそうなるのかは後で説明しますが、とりあえず、こういうものがいつの間にか水槽内に出てくるということを覚えておいてください。これが2つ目の悪い物質です。 さらにこの亜硝酸が変化してできる硝酸塩という物質も水槽に貯まってきます。これも後述しますが、こういうものがやっぱり水槽内に出て来るということだけ覚えておいてください。これが3つ目の悪い物質です。 細かいことを言い出すと他にもあるのですが、とりあえず、一番影響が大きく、良く話題にのぼる物質ですので、この3つ「アンモニア」「亜硝酸」「硝酸塩」というものが水槽に貯まって水質を悪くするということを覚えておいてください。 この3つの悪い物質。同じ悪い物質でも悪さ加減が違います。「アンモニア」と「亜硝酸」は魚に直接悪い毒です。ですので、正真正銘の悪い物質なのですが、「硝酸塩」は比較的、魚には無害です。でも、なぜ悪い物質になっているのかと言いますと、この「硝酸塩」が水槽内に貯まってくると水質を徐々に変化させてしまいます。具体的にはpHという数値を下げてしまいますので、時間がたつにつれて、魚には悪い水になってしまう可能性があります。このあたりのお話はちょっと難しいのですが、とりあえず、「アンモニア」「亜硝酸」はすぐに除去するべき毒のある物質、「硝酸塩」は、とりあえず無害ですが、どんどん貯まって来ると魚に害が出てくるかも知れない物質ということで覚えていてください。 |
■物理濾過って? 上でも少し説明しましたが、物理濾過というのは水の中に漂っているゴミをこし取ることです。皆さんがお使いの濾過器を見ていただけるとわかりますが、水が入ってくる部分にウールマットやスポンジなど、ゴミをこすためのものがセットされていることと思います。それにゴミの漂う水を通すことで、水の中からゴミを取り除きます。これに関してはとてもわかりやすいですね。 |
■吸着濾過って? 水中にある悪い物質(この場合、上記の悪い物質以外のいろいろな悪いものを一緒に取り除くという意味合いの方が強いですが…)を活性炭などに吸い取ってもらうという濾過方法です。吸い取ってもらえるのなら、これだけで良いだろうと思われるかと思いますが、実は大きな欠点がありまして、活性炭などは、その効果が長く持続しません。普通は2週間ほどで悪い物質を吸着しなくなってしまいます。ですので、悪い物質の除去に活性炭を使い続けるのはコスト的にもどうにも割が合わないというふうに思います。特に大型水槽でたくさんの魚を飼ったりする場合には悪い物質もたくさん出ますので、それを吸い取るには、より多くの活性炭が必要でして、活性炭を交換し続けるのはつらいものがあります。ですので、この活性炭による吸着濾過というのは、ワンポイントで一時的に使われたり、小型水槽の維持に役立てられたりする場合が多いです。 |
■生物濾過って? さて、難題の生物濾過です。これも吸着濾過と同じように、悪い物質を水から取り除くことを目的にしています。ですが、吸着濾過のように活性炭に吸い取ってもらうという単純な話ではないので、ややこしいのです。では、どういう風に悪い物質を除去するのか、順番に説明します。 まず水槽の中で、魚たちが糞をします。また、水草が腐ったりします。そこからは1番目の悪い物質「アンモニア」が発生します。ですが、なかなか良くできたもので、このアンモニアを食べるバクテリアが水槽内に自然にわき上がって来るんです。どこから来るのかは見たことがないのでよくわかりませんが、元々空気中に漂っているものだとか、水の中にはじめから居るとか言われています。でも、そんなことはとりあえずおいておきましょう。まずは、アンモニアが発生すると、それを食べるバクテリアも発生して、アンモニアをエサにして水槽内で増殖するということを覚えてくださいね。さて、このバクテリア、目に見えませんがこれも生物です。食べたら糞をします(糞という表現は適切ではないかも知れませんが、とりあえず)。それで、このバクテリアはアンモニアを食べて、「亜硝酸」を出します。せっかくアンモニアを食べてくれたのですが、またもや悪い物質の亜硝酸を出してしまいます。困りましたね。でも、またも良くできたもので、今度はこの亜硝酸を食べるバクテリアもどこかからやってくるんです。そして、亜硝酸をエサにして、またも糞をします。今度の糞は硝酸塩です。上でも説明しましたが、硝酸塩は比較的無害な物質です。順番に書きますと、 魚の糞→アンモニア→亜硝酸→硝酸塩 こうしてバクテリアの働きで糞から発生する「アンモニア」を「亜硝酸」を経由して比較的無害な「硝酸塩」に変えることができます。このようにバクテリア(濾過バクテリアと呼ぶ)を利用して悪い物質を無害化することを”生物濾過”といいます。ちなみに、「硝酸塩」も貯まってくるとまずいですので、それは水換えによって水槽の外に出してしまいます。 |
■実際の水槽では? さて、理屈はわかりましたが実際の水槽ではどうなっているのでしょうか?物理濾過はゴミをこし取っている部分ですのでよくわかると思いますし、吸着濾過も活性炭でやることがほとんどですのですぐにわかります。ですが、生物濾過はどこでやられているのか、なかなかわかりにくいと思います。濾過バクテリアは目に見えませんし。実は、濾過バクテリアは水槽の至る所に住んでいます。水の中はもちろんですが、濾過器の中、底砂の中、ガラス面など、あらゆるところに居ます。ですが、この濾過バクテリアも居心地が良いところにはたくさん居着くようでして、通気性が良く、なおかつ居着きやすいくぼみなどがお気に入りのようです。ですので、それらのバクテリアのすみかとして生物濾材というものを濾過器に入れる場合が多いです。小さな穴が無数にあいたリングになったものやウールなどの繊維、スポンジや軽石や砂利などを生物濾材とする場合が多いです。そういうものを入れておくと、濾過バクテリアが住み着きやすくなります。 |
■濾過ができあがるまで よく、掲示板で質問などすると、「それは濾過ができていませんね」なんて言われますが、そんなこと言われてもわからない場合には困りますね。濾過ができていない状態というのはどういうことなのか、わかっていただくために、水槽を新しく初めてから濾過ができあがったと言われるところまでの課程を順番に書いてみたいと思います。また、主に濾過ができていないといわれる状態は生物濾過についての場合がほとんどですので、他の濾過については説明しません。 @水槽をセットし、新品の濾材を濾過器に入れて、新しい水、魚を入れてスタートです。 A魚が餌を食べて糞をします。糞からはアンモニアが発生します。 Bアンモニアの量が増えてきます。それに従ってアンモニアを食べる濾過バクテリアも増えてきます。 Cアンモニアを食べる濾過バクテリアが十分に増えてきたのでアンモニアが減り始めます。ですが、かわりに亜硝酸が発生します。 D亜硝酸が増えてきたので、それに従って亜硝酸を食べる濾過バクテリアも増えてきます。また、このときアンモニアを食べる濾過バクテリアはすでにかなり多くなっていますので、糞から発生するアンモニアはすぐに食べられてしまい、ほとんど検出できない濃度になっていきます。 E亜硝酸を食べる濾過バクテリアが十分に増えてきたので亜硝酸も減り始めます。ですが、かわりに硝酸塩が発生します。 F硝酸塩を分解できるバクテリアは、通常の水槽にはほとんど発生しませんので硝酸塩は水中に貯まってゆきます。また、このとき亜硝酸を食べる濾過バクテリアはすでにかなり多くなっていますので、アンモニアから発生する亜硝酸はすぐに食べられてしまい、ほとんど検出できない濃度になっていきます。 G硝酸塩が貯まってきたら、水換えをして外に排出します。 上記の@〜Fまでが濾過のできあがる課程です。Fまで到達すれば一応、「濾過ができあがった」と言えると思います。 この様子を、水槽内のアンモニア、亜硝酸、硝酸塩の濃度と、濾過バクテリアの数について模式的に図にしたのが以下です。あくまでも模式ですので、正確な数値ではありませんが、イメージをつかんでいただけるように載せてみました。実際に水槽立ち上げから、アンモニア、亜硝酸、硝酸塩の濃度を記録し続けると、このような図を書くことができると思います。 |
■濾過バクテリアについて はじめから”濾過バクテリア”とひとくくりで説明してきましたが、実は名前が付いています。アンモニアを亜硝酸へと変化させる濾過バクテリアは、「ニトロ・ソモナス属」、亜硝酸を硝酸塩へと変化させる濾過バクテリアは「ニトロ・バクター属」と呼ばれています。難しいので、個人的には両方とも濾過バクテリアで良いと思いますが(笑)。 |
■濾過バクテリアの維持 一度発生した濾過バクテリアを殺してしまうと、また悪い物質が増えてきたりします。ですので、せっかく増えた濾過バクテリアを維持するための注意点などを書いてみたいと思います。濾過バクテリアが生存し続ける条件は、酸素があること、エサ(アンモニア、亜硝酸)があることです。また、水温があまりにも高かったり、低かったりしてもバクテリアはダメージを受けます。さらに、薬などにも弱いですので、水道水に含まれる塩素などにも注意する必要があります。それらを頭に入れて、濾過バクテリアをしっかりと維持しましょう。 |
■最後に ちょっと難しいお話でしたが、なるべくわかりやすく説明したつもりです。でも、説明下手なものでして、わからなければ掲示板まで、お気軽に質問してください。 「水槽維持は、魚を飼うと同時に濾過バクテリアも飼う」なんておっしゃる方がいらっしゃいますが、うまい言い回しだなと思います。濾過がしっかりとできていると、魚の病気も出にくくなりますし、多少魚を多く入れたりという無理もきくようになります。ですので、しっかりとバクテリアを育てて、維持してゆくことは飼育を楽しむ上では重要な要素の一つだと思います。もちろん、濾過が良ければ全てよし、とはなりませんし、飼育で気をつけるべき事は他にもありますが、それも含めてうまく飼えると一層飼育が楽しくなるのではないでしょうか。 |