猫でもわかる混泳のお話

 熱帯魚を飼っている大部分の方がしていると思われる、多種の熱帯魚の混泳のお話です。本来は、一つの水槽に1種類を飼育するとか、1匹を飼育するのが、トラブルがなく一番良いのですが、やはり一つの水槽に1種のみというのは、ちょっと寂しいなと感じることが多いと思います。また、飼育をはじめたばかりですと、水槽一つにあの魚も入れてみたい、こちらの魚はどうだろう?などと、いろいろと思い悩むものですので、そういうことからしても、水槽の混泳魚は増えてしまう結果になることが多いです。とりあえず、最善策は、1種飼育なのですが、それを言っても大部分の方にとって現実的ではないですので、混泳をするという前提で、なるべくトラブルを少なくするにはどうすればよいかとか、混泳魚を考えるときにどういう判断をするのかとか、その辺りの話を書いてみたいと思います。例によって初心者の方に向けた解説ですので、初心者向けといわれる魚を想定しています。ですので、特異な性質の魚などのことはあまり考慮していませんので、その点は了承の上、ご利用くださいね。

 ※おことわり:混泳に関しては魚ごとの個体差などがあるために、以下の記述では、絶対に成功する方法を示しているわけではありません。なるべくうまくいくように、という方法ですので、その点ご理解の上、ご利用ください。
 また、以下の解説の中には厳密に言うと定義や理論が不適切と思われる記述がありますが、今回、初心者向け、そして他の方とのスムーズな情報交換のための解説ということで、実用面から見て”アクアリウムの世界での常識”に重点を置いています。ですのでこの解説をそのまま一般の生物や魚類学に用いると誤解を生ずるおそれがありますので、ご注意ください。

■混泳って?
 まず基本的なお話からです。熱帯魚の混泳というのはどういうことなのか、確認しておきます。
 以下の解説では、別の種類の熱帯魚を同じ水槽で飼育することを考えます。また、一緒に入れた魚同士が接触する可能性がある場合ということにしましょう。例えば、産卵箱を水槽に吊るしていたりしても、そこに入っている魚は混泳しているとは言わないことにします。
 魚同士と書きましたが、熱帯魚水槽で一緒に飼育されることもある、エビ類や貝類なども入れることにします。逆に、スネールとか、水槽に湧いてきたミジンコとか、そういう、もともと意図的に飼育をはじめたのではない生物に関しては除外して考えます。
 それら、魚を中心とした生き物たちが、お互いに傷つくことなく、元気に水槽生活を送れる状態を、”混泳がうまくいった”ということにしますね。
 そういう前提で混泳できるかどうかの判断の仕方、それから少しでもうまくいくようにするコツ、混泳が失敗したときの対処法などを考えてみたいと思います。

■食べる魚・食べられる魚
 まずは、混泳で一番最初に考えることですが、一緒に入れた魚が、他の魚を食べてしまうようなことは避けなければいけません。目の前で愛魚が別の愛魚を捕食するというのはあまりにもショッキングですから、それを避ける組み合わせを考えます。
 熱帯魚は雑食性の魚が多いです。ですので、人工飼料のようなものも食べますが、口に入る魚が目の前を泳いでいればそれも食べます。ということは、混泳する予定の魚の口が、別の魚の体よりも必ず小さいことは確認してから混泳をはじめる必要があります。つまり、70センチのレッドテールキャット(口はどう考えても10センチ以上開きます)の水槽に、3センチのネオンテトラを入れても、混泳は成立しないということです。
 ただし、この条件は必要最低限です。熱帯魚の中には他の魚を食べるのが好きな魚(一般に肉食魚と呼びます)もいます。そういう魚は、たとえ相手が自分の口より大きくても、攻撃してかじりつき、弱らせて端から食べるということも普通に行います。つまり、肉食魚を混泳させる場合には、ほぼ同サイズの魚に限るのが基本です。ですが、これでもまだ甘い場合がありまして…。一部の口の大きなナマズや攻撃力の高い魚ですと、自分と同じサイズの魚を丸呑みなどというとんでもない食欲の持ち主もいるんです。その辺りに関してはさすがにここではカバーしきれませんので、個々の魚について調べてみてください。
 全体的な傾向として、大きくなる熱帯魚は肉食であることが多いです。ですので、お店で購入するときにはその魚の最大サイズと、肉食魚かどうかをしっかり聞くことが重要です。初めのうちは、肉食魚を混泳しないことにしておくと、安全です。

■魚の大きさ
 食べるかどうかは大きさにもよる、ということを書きましたが、それとは別の意味での魚の大きさのお話です。魚は基本的に大きいほど強いです。性格の問題はとりあえずおいておきまして、体が大きいほど、病気や怪我にも強く、力も強く、動いたときの他への影響力も大きくなります。逆にいえば、他の魚はその影響を大きく受け、ストレスを感じることになります。
 例えば、40センチのセルフィンプレコが居るとします。その近くに5センチほどのコリドラスが群れている状況を考えてみましょう。セルフィンプレコはコリドラスを食べないかもしれませんが、尻尾をちょっと振っただけで、コリドラスが弾き飛ばされるのは容易に想像がつきます。一度や二度、跳ね飛ばされても、コリドラスが死ぬとは思えませんが、毎日毎日そんなことが続けば、コリドラスが安心して長生きすることは望めません。
 このように混泳は水槽内の魚のバランスを保つことが重要ですので、一匹だけ突出して大きい魚がいるとか、逆に他の魚よりも、ものすごく小さい魚がいるという状況は、食べる、食べられるということがなかったとしても混泳にはあまり向きません。混泳する場合、なるべく魚のサイズを合わせると、うまく行く場合が多いです。私の経験上、肉食魚でなければ、一番大きな魚と、一番小さな魚が2倍程度の体格差におさまるようにしておくのが良いと思います。

■魚の性格(基本的な考え方)
 熱帯魚も他の魚にちょっかいを出す気の強い魚から、他には無関心なもの、臆病なものまでいろいろといます。普通に考えてもわかりますが、他の魚にちょっかいを出さない魚同士でしたら、お互いに干渉しないので、平和な状態を保つことができます。できるだけ混泳を失敗しないようにしたければ、性格の温和な魚を選ぶのが無難です。ですが、魚の性格に関しては、購入時に見極めるのはなかなか難しいです。その魚について詳しい店員さんがいる場合には良いですが、いない場合には、その場で買うことはせずに、情報を集めてから買うことをおすすめします。
 また、気の強い魚同士の混泳も成功する場合があります。お互いに力が拮抗していると、小競り合いはあっても、程よい力関係で落ち着くこともあります。ただし、これはどの魚と、どの魚ならうまく行くかが事前に予想しにくく、結果的にうまくいっているだけの場合も多いですのでそれを狙って魚を購入するのはなかなか難しいと思います。
 魚の性格として気をつけることは、気の強い魚と気の弱い魚を一緒にしないこと、やむをえず一緒にするのであれば、気の強い魚よりも気の弱い魚のほうが必ず体格が大きいこと数が多いことが重要だと思います。

■魚の性格(特殊な事例)
 特殊な例がありますので、いくつか紹介します。
 まずは性格が変わる魚がいることです。小さいときには温和なのに、大きくなってくると他の魚を追い掛け回すようになるものは結構います。そのときには他の魚と、大きさに差がついている場合もありますので、その辺りも気をつけてみてください。また、シクリッドなどの子育てをする魚に多いですが、ペアになり繁殖期を迎えると、他の魚を執拗に追いまわし、攻撃するようになることもあります。そういう性格の変化も考慮して混泳魚を選ぶ必要があります。
 さらに、他の種類の魚にはちょっかいを出さないのに、同種間だと激しく争う性格の魚もいます。そういう場合には、同種は1匹にして、他の魚とのみ混泳するようにします。ただし、この場合でも自分に似た姿形の魚にも攻撃する場合がありますので、それは気をつけてください。
 特定の形に反応する魚などもいます。多いのはひらひらしたヒレや色鮮やかな体色に対して、攻撃的になる場合です。スマトラなどは、エンゼルフィッシュと一緒にすると、エンゼルのヒレがボロボロになるまで追い掛け回すことで有名です。グッピーやベタなど、ヒレがひらひらと長い魚は、比較的他の魚の興味をひきやすいようなので、混泳魚を選ぶときには十分に注意が必要です。

■泳いでいる場所(1)
 魚が主に生活している場所が重ならないようにすると混泳がうまく行く場合が多いです。右の図に示すように、水槽を3層に分けて考えるとわかりやすいと思います。水面直下を泳ぐ魚(例:ハチェット、デルモゲニーなど)のいるところを上層、底砂のすぐ上で生活している魚(例:クラウンローチ、コリドラスなど)のいるところを下層、その中間を泳ぐ魚(例:ネオンテトラ、ラスボラなど)のいるところを中層と考え、それぞれ1種類ずつくらいでしたら、あまり混泳に問題が出ない場合が多いです。中層は広いので、ここは数種類とか、そういうことでも良いと思います。
 できるだけ、同じ層にたくさんの魚が固まらないようにすると比較的混泳はしやすいです。逆に同じ層ばかりに魚が固まると、居場所がなくなった魚が本来とは別の場所に追いやられることもありますので、その点は気をつけてください。特に下層を住処にしている魚は、ある程度落ち着いた場所がないとストレスを感じることが多いですので、下層を過密にすると、混泳がうまく行かない場合が多くなります。

■泳いでいる場所(2)
 魚には縄張りがあります。水槽を観察しているとわかりますが、ある程度決まった場所を泳いでいることが多いです。縄張りを侵犯されると、怒る魚が多いですから、なるべく縄張りが重ならないようにすることが大切です。例えば、水草の中を泳ぐのを好む魚と、広いところを泳ぐ魚を一緒にする場合には、片側に水草、もう片側に何も植えない場所を作るなどしてもよいと思います。常にビュンビュン泳ぐ魚(ゼブラダニオなど)は障害物の多いところにはあまり入りたがりませんが、止まっていることも良くある魚(テトラ類など)は、水草などの陰に隠れることも特に苦にしていないように思います。住み分けしやすい環境を作った上でそれぞれに適した魚を入れるというのも一つのアイデアです。
 とにかく、縄張りが重ならないようにすると混泳がうまく行く場合が多いと思います。

■水質
 魚には適正な水質があります。といってもあまり厳密に考える必要が無いことが多いですが、大まかに弱酸性寄り、弱アルカリ性寄りの魚がおりますので、適正水質の違う魚同士を混泳させないことが理想的です。また、どうしても適正水質の違う魚を混泳飼育するときには中性付近で飼育することをおすすめします(あまり神経質になる必要はないと思いますが…)。


 ここまでは、主に混泳させる魚を選ぶ時のポイントについてのお話でしたが、ここからは同じ魚でも混泳をより上手に行う方法を書きたいと思います。

■水槽内を分ける
 上でも書きましたが、魚には縄張りがあります。観察していると、縄張りに入ってきた魚を、縄張りの主の魚が追いかけるとき、何か障害物があればその手前までしか追わなかったり、ある程度のところで引き返す様子が見られます(たまに、どこまでも追いつづけるツワモノもいるんですが…(^^;)。それを見ていますと、一見適当にみえる魚の縄張りは水槽内のレイアウトにも大きく影響を受けているように思えます。ということで、それを利用しまして、水槽を適当なレイアウトで仕切ってみると、混泳がうまくいく場合があります。例えば、一部分だけ背の高い水草の茂みを作るとか、流木や石を真ん中において、水槽を大まかに2つに仕切るとか、隠れるのが好きな魚の場合には、隠れ家になるような土管や、パイプを入れるなど、そういう工夫をして、水槽内をいくつかのエリアに仕切ることで、それぞれの場所に落ち着いて縄張りを作ってくれることがあります。

■魚の数を増やす
 魚は群れを作ると強くなります。ですので、弱い魚の数を多くしてやることで、群れを作らせ、強い魚からの攻撃を分散させることで個々のストレスを小さくすることができると思います。もともと魚が群れを作るのはそのためですので、理にかなった方法だと思います。また、魚はあまりにも周りに別の魚が多いと、縄張りを作ることをあきらめるというお話も聞いたことがありますので、そういう意味でも魚の数を増やすのは有効かと思います。
 ただ、これは、あまりおすすめという方法ではありません。それは、この方法をとると、混泳魚が多くなるために、水槽の濾過能力などに負担が増えてきますので、混泳以外でのトラブルを招く危険が大いにあります。ですので、その辺りも含めてしっかりと考えてから実行する必要があります。

■水槽を大きくする
 それぞれの魚の縄張りが重ならなければ、混泳は成功しやすいですから、単純に水槽自体を大きくしてやることも有効です。でも、水槽が大きいと、その分多くの魚を入れたがるのが、アクアリストの宿命のようなものですから、混泳の問題を第一に考えるのでしたら、小さな水槽を多く用意するほうが簡単かもしれません。

■まとめ
上でいろいろと書きましたが、熱帯魚の混泳について、魚を選ぶ観点と、水槽設備などの観点から簡単にまとめてみます。

(1)混泳魚の選び方
・魚のサイズを揃える
・なるべく肉食魚を入れない
・遊泳層の違う魚を選ぶ
・性格の穏やかな魚を選ぶ
・気の荒い魚と気の弱い魚を一緒にしない
・ストレスに強い魚を選ぶ

(2)混泳するときのコツ
・障害物を入れて水槽内を大まかに分け、注意を分散する
・弱い魚は数を多く(体格を大きく)する
・水槽を大きくする

以上のような点に注意して混泳をすると、トラブルを少なくできることが多いです。特に魚の性格については、お店の人に聞くのもそうですが、ネットなどで検索してみて、実際に飼育されている方のお話なども参考にするとより安心です。

■どうしてもうまくいかなかったら
 上記のようなことに気をつけても、どうしてもうまく行かないことがあります。それは魚ごとの個体差であったり、水槽の状況であったり、いろいろと要因がありますが、水槽の中で現実に魚がいじめられるなどして弱っている場合には手をこまねいているわけには行きません。ですので、そのときの対処をいくつかあげてみたいと思います。

●完全に仕切る
 一緒に入れておくことができないのですから、まずは混泳で問題になっている魚を他の魚と接触できないようにする必要があります。別に水槽があればそれに分けるのも良いですし、水槽が無い場合には、一つの水槽を二つ以上に区切るための、セパレーターという器具が売っていますので、それをつけて、魚同士が接触できないようにします。また魚が小さければ、産卵箱や100均に売られている適当な大きさの容器などで隔離しても良いと思います。
 また魚を買ってくる予定があるのでしたら、万が一のために、予備の水槽や、水槽を仕切ることのできる準備をしておくのも重要だと思います。

●里子に出す
 飼育者としては恥ずかしいことですが、飼いきれないということなので、誰か飼ってくれる人を探して、引き取ってもらうというのも手です。友達で水槽を持っている人などが引き取ってくれれば一番嬉しいですが、それができなければ、買ったお店で引き取ってくれる場合もあると思います。また、水族館などでも引き取りに応じてくれる場合もありますので、探してみると良いと思います。ただし、どの場合でも混泳がうまく行かないのに買ってしまったことをしっかりと反省して、魚や引取り先の方に最大限の配慮をしましょう。

■最後に
 熱帯魚の混泳問題はなかなか難しいお話ですが、大抵の方が行うことでもありますのでなるべくしっかりと考えたいところです。魚はたくさんの種類がいますので、混泳の組み合わせは無限ですから、全ての場合について説明することはできませんが、魚の性質(最大サイズ、肉食かどうか、遊泳層、性格)がわかれば、ある程度の判断は下せるものと思います。ですので、何よりも魚を買う前にしっかりとした下調べをすることが重要だと思います。

 なにやらいろいろと書いてきましたが、皆さんが混泳魚を決めるときの手がかりくらいにはなれたら良いなと思います。せっかく魚を飼うのですから、しっかり考えて、平和な水槽を目指してくださいね。

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