少しステップアップ

 初心者の方に向けた熱帯魚の基本的な飼育方法はいろいろなサイトで紹介されています。それらについて、ここで解説しても、必要なことは語れるかも知れませんが、十分とは言えず、何か抜けたお話をしそうですので、それは他のサイトにお任せするとして、私がクラウンローチ(と熱帯魚)を飼っていて、気がついた(といってももっと前に気がついている方々はたくさんいらっしゃいますが(笑)、コツのようなものを紹介できたら、飼育をはじめたばかりの皆さんのちょっとした参考になるのではないかと思い、こんなコンテンツを作ってみました。ということで、とりとめなくいろいろと書いてみたいと思います。クラウンローチを飼った経験からのお話ですが、他の熱帯魚の飼い方にも通じるところがありますので、熱帯魚全般についての知識として書いてみました。ベテランの方にとっては今更どころか、異論があるかも知れない内容ですが、とりあえず、私の「無理をしないで、できることからやってみる」飼い方を紹介してみたいと思います。



■何事もゆったりと
 熱帯魚をしばらく飼っていて一番最初に思ったのは、何をするにも急激な変化は良くないということです。水温、pHなどの水質、各種病魚薬の濃度はもとより、飼育する魚の数や、餌の量、レイアウト、照明の点灯時間なども、いきなり大幅に変えてしまうのはあまりよろしくないと思います。そして何よりも、あなたの気持ちのゆとり。ゆったりと、魚たちと向き合いたいものです。

●水温・水質
 熱帯魚は意外と水への適応能力が高いようでして、ゆっくりと時間をかけて慣らせば、かなりの範囲に適応してくれます。温度も上下10度くらいは大丈夫なものが多いですし、水質も、pHが3くらい変動しても追従できる魚は多いです。とはいえ、唐突に温度を10度変えたり、pHを3も変更すると大抵はかなりのショックを受けて調子を崩します。水あわせなんて言う作業があるのはそのためです。ですので、水質や水温を変化させるときには、できる限りゆったりとやってあげてください。水換えも、病魚薬の投入も、pHを調整するための薬物なども、急激な変化をもたらすことはできるだけさけて、徐々に徐々に濃度を調節していくのが、魚たちに負担をかけないコツのようです。

●飼育魚数(餌の量)
 これは、はじめて魚を飼うときにやってしまいがちですが、大量の魚を一気に投入することです。そうすると、必然的にあげる餌の量が一気に増えてしまいます。濾材の生物濾過の能力というのは、それまでに水槽内で発生した有毒物質(アンモニアや亜硝酸)をちょうどよく分解できるだけの能力しか持ちません。つまり、10匹のクラウンローチの水槽には、10匹のクラウンローチ(の餌)が出す有害物質を分解する能力しかないんです。ですから、そこにあと10匹を一度に投入すると、理論上はクラウンローチ10匹分の有害物質が分解されずに水槽内にとどまることになります。それを分解するためのバクテリアが繁殖するまでは、有毒物質の中で魚を飼い続けなければなりません。ですので、処理しきれない有害物質を少なくするためにも、魚は様子を見ながら少しずつ追加していきたいものです。

●照明の点灯時間
 魚にも生活リズムがあるようです。夜になって暗くなるとクラウンローチは寝てしまいますし、朝になって明るくなると、起き出して餌をよこせとせがみます。彼らにも時間の感覚はあるのでしょうね。そして、それを左右するのは明るさなのだと思います。ですので、できるだけ照明の点灯・消灯は規則的にやってあげたいものです。変えるとしても、一度に昼夜を逆転させるようなことはしない方が良いと思います。

●レイアウト
 クラウンローチなど、物陰に隠れる習性のある魚は、観察していると居心地の良い隠れ家をいくつか持っているようです。レイアウトの大幅な変更などで、それが崩されるとイライラと水槽内を泳ぎまわって落ち着かないで居る場面をよく見かけます。レイアウト変更は水槽の雰囲気を変える楽しい作業ですが、その時にもできることなら、これまでの隠れ家を壊さないようにやってあげられたらと思います。

●気持ちのゆとり
 これがあるのとないのとでは、魚たちへの対応が違ってきます。特に病気などの時は、気を付けましょう。急いてしまうとどうしても水や環境に急激な変化をもたらす処置をしてしまいがちですし、慌ててしまってよく調べずに処置をしてしまうことすらあり得ます。1秒でも早くしないといけないこともありますが、たいていの場合、1分が10分になっても困ることはありません。何事にも動じず、ゆったり構えて、しっかり考えてから対応しましょう。



■やりすぎにはご注意
 「過ぎたるは及ばざるが如し」なんて、日本にはやりすぎを戒めることわざがありますが、熱帯魚を飼っていてもそれは言えると思います。すべては熱帯魚をかわいいと思う心からのことなので、悪意がないのが困りものなのですが…。餌をやりすぎる方、良くいらっしゃいます。水を換えすぎる方、濾材や底砂を洗いすぎる方、魚を入れすぎる方、すべては、魚たちのために、理想の水槽を得るためにしていることです。でも、これもあまり良くないんです。

●餌
 魚たちって意外と小食なんです。というか、小食でも大丈夫な体の構造なんです。それが魚類の良いところです。エネルギーがなければ無いなりに生活するすべを持っています。食べないで働くと倒れる人間はいっぱい居ますが、人間が魚と同じなら、食べずに24時間働けるような気がします。というくらい、魚は食べなくても大丈夫な方々なのですが、それにも関わらず、餌を多めにあげると、そのまま食べてしまう困ったちゃんでもあります。魚に成人病があるのかどうかはわかりませんが、あまり太りすぎるのも考え物です。さらに、「あとでお腹がすいたら食べるだろうと」いって、今は食べないのに餌をあげる方もいらっしゃいます。それは行けません。よく見ていればわかりますが、水槽の底の方でかびが生えてしまった餌は魚たちはまず食べません。それは、ただ単にゴミになり、無駄に水質を悪化させるだけです。ですので、少なくとも、見ている間に食べきる量、そして理想的には成長を促し、健康を維持できる最低限の量にしておくのが、いろいろとやっかいごとを減らすには良いと思います。魚たちが餌をつつく姿は見ていて楽しいものですので、たまにはそれを長く眺めても良いでしょう。それが飼育の楽しみというものです。でも、毎日、毎回は、魚のためにも水のためにも良くないことが多いですので、やめた方がよいと思います。

●水換え・濾材掃除
 水を換えたり、水槽を掃除したり、濾材を洗ったり、というのは、重労働ですので、大抵の方がだんだんと嫌いになってくるようですが、水槽をはじめたばかりの頃は、ちょっとした水中の浮遊物や底砂の沈殿物、濾材の汚れが気になるもので、ついつい毎日のように多量の水を換えたり、隅々まで綺麗に掃除をしてしまいがちです。その気持ちはとても良いことですが、気持ちだけにしておいた方が良い場合も多々あります。現在のアクアリウムは濾過バクテリアを育てることを前提に考えられています。濾過バクテリアを増やすには水槽内に、ある程度のバクテリアの餌がある必要があります。その餌は、魚の排泄物から発生したりするわけです。それを徹底的に排除してしまうと、濾過バクテリアはなかなか育ちません。なによりも濾材などに付着した汚れのように見えるもの自体が濾過バクテリアの場合もあります。見た目に綺麗な水や環境が魚にとっても良いかどうかはわかりませんので、多少のことには目をつぶる寛容さが求められるのかもしれませんね。もちろん、汚すぎるのも駄目ですよ。全てはバランスということです。

●魚
 魚を入れすぎる気持ちはとてもよくわかります。熱帯魚はたくさんの種類がありますので目移りして、あれもこれもとなることが多いです。たとえ1種類でも、多数入れて群泳を眺めるというのも、ポピュラーな楽しみ方です。とにかく、熱帯魚を飼っていると、魚を増やす誘惑がいっぱいですので、私もどうしても増やしがちになります(笑)。でも、やっぱり、限度はあります。水槽の水量や濾過能力、エサや管理の仕方などでそれは自ずと決まってきますが、自分の飼育スタイルを確立して、その辺りの見極めができるようになるにはやはり少しの経験が必要だと思います。それがないうちは、魚たちのことを考えて、気持ち少な目に飼ってあげると、トラブルを減らせると思います。



■よく食べれば、魚は健康
 今までいろいろと魚の残念な死に際を見てきましたが、魚が調子が悪くなってきた時って、大抵は餌を食べなくなります。どんなに体の表面に異常が見られなくても、綺麗に発色していても、餌を食べないと死んだり、その後に病気が発病したりする事は多かったです。逆に、白点で体中が真っ白になっても、餌さえきちんと食べてくれていれば、回復することが多かったように思います。基本的に動物には食欲があるわけですから、餌を食べないことというのは異常な状況です。ですから、私には餌を1週間あげなくても大丈夫という感覚はどうにも怖いです。確かに大丈夫なのでしょうが、それで餌を食べない癖がついたりするのが怖いのです。ですので、餌をあげるなと言われている病魚治療でさえも私は少量の餌をあげながらやっています。以前は餌断ちををしていたのですが、そのときと比べても特に治癒率が下がったようには思っていません。このあたりのことに関しては異論のある方も多いと思いますが、私は基本的に少量でも餌を毎日あげるようにしています。ただし、”やりすぎにはご注意”のところでも述べましたが、エサは少な目が良いようですので、毎日やる方は、魚の様子を見つつ、水の様子をうかがいつつ、その量を加減できるようになると理想的だと思います。



■できないことはできません
 趣味でやっているのですから、魚の世話にすべての時間を使えるわけではありません。魚にかけられるお金も無限ではありません。魚に割ける気配りも限られてきてしまいます。つまり、魚のためにやってあげたいことはいくつもありますが、実際にやれることにはそれぞれに限界があるんです。でも、はじめて魚を飼うとあれもやろう、これもやろうと考えがちです。初めのうちは物珍しさも手伝って一生懸命できるのですが、無理をしているとそのうちつらくなります。そして飼育が嫌になる方も多いでしょう。私はそうなって飼育を途中でやめてしまう方がいらっしゃるのがとても残念ですし、魚が可哀想に思います。ですから、そうなる前に抜けるところから手を抜きましょう。といっても、きちんとポイントだけは押さえて、魚にあまり負担をかけずに、あなたが”飼育が嫌にならないこと”を目指してみると良いのではと思います。

●時間を短縮
 餌やりはあまり時間を取りませんが、水換えや掃除には意外と時間がかかったりします。水槽のリセットなどやった日には一日仕事になりかねません。そして、大きな水槽になればなるほど、かかる時間は長くなります。ですので、それを短くするための工夫をしましょう。掃除のための便利な器具を買ったり、注水排水のためにバス用のポンプを使う方もいらっしゃいます。そういう細かい工夫はネットで検索すればいくらでも出てきますので、ぜひ自分のスタイルにあった時間や手間の短縮方法を見つけてみてください。

●お金を節約
 熱帯魚はある程度お金のかかる趣味です。ですが、お金を節約する工夫はできます。まずは、魚自体の値段ですが、幸いなことに安い魚がつまらないということはありません。これだけ種類が居るのですから、安くても気に入る魚は見つかると思います。その辺りが熱帯魚の良いところですよね。飼育器具や設備も、高価なほど良い傾向にはありますが、それでも小さい設備で充分に飼える魚もいますので、財布をギリギリまで絞らなくても大丈夫な魚を選ぶことも重要だと思います。また、市販の設備を手作りの品で代用することも日曜大工的な楽しみもありますし、良いことと思います。
 また、忘れがちですが、ランニングコストもかかります。電気代はもとより、エサ代や、各種の調整剤、薬にもお金がかかります。でも、それらを節約する方法もあります。ヒーターの電気代がかさむ冬などには、水槽の周りを断熱材や毛布などで囲うことで保温できますし、エサも手軽で安価な人工飼料を主体にすることもできるでしょう。カルキ抜きなど、液体のものではなく、ハイポを溶かして使っても安上がりになります。いろいろと節約する工夫はありますので、手間や時間と相談してやってみると良いと思います。

●気配りを…
 水槽を気にかけるのは良いことですが、気にしすぎても疲れてしまいます。例えば、いつも水質のことが気になって仕方がないと、水質検査をひたすら繰り返したり、ちょっとした虫が一匹水槽にいただけでもリセットしたり、気にし始めるときりがないです。でも、ある程度安定期に入った水槽では、特別なトラブルがない限り、水質が一気に悪くなることはありません。また、水槽に沸く虫なども数が異常に多くなければ、普通の出来事です。水温と魚たちの様子くらいは毎日気を付けてあげるべきだと思いますが、それ以外の要素に関しては、数日おきとか、水換えの時とか、気を休めてみるのも良いかと思います。



■少量を何回も
 ”何事もゆったりと”も通じる部分もあるのですが、魚は唐突な変化に弱いです。ですので、一度の変位を小さくした方が良いのです。でも、ある程度の量の変化が必要な場合があります。水換えや、エサです。これらは一定量以上やらなければやる意味がない場合があります。ですので、そういう場合には、なるべく小分けにして回数を多くする方が、一度の変化が少なくてすみますので理想的です。

●水換え
 水換えのデメリットとして、水質が変化することがあげられます。1回の換水量を多くすればするほど、水質の変化は大きくなります。ですので、10日に1回、1/2の換水をするならば、5日に1回、1/4の換水をする方が、最終的に同じ水量の水を換えたとしても、1回の水質変化は小さくなります。仕事の都合などで、どうしても時間がとれない場合も多いですが、できることならば、少量で、こまめな換水を心がけたいものです。

●餌やり
 エサは一度に大量にあげても、余ってしまうこともあります。それは魚の栄養にはならずに、ただ単に水を汚すだけになってしまいます。それはもったいないですよね。ですので、同じ量のエサをあげるにしても、2度に分けてあげると、エサも効率よく魚たちに吸収されることと思います。それに、餌やりは楽しいですよね。それが増えるのは、嬉しいではありませんか。でも、くれぐれも1回のエサの量を増やさないでくださいね。それでは、小分けにした意味がありませんので。



■はじめに魚ありきです
 マニュアル化された飼育手順というものがあります。エサはこれだけ、水換えはこれだけ、水質の各種数値がここになったら、これをやる…といろいろとあります。これらは、魚が元気であることを目指して決められた基準ですが、水槽ごとに状態は違います。ですので、魚の状況というのが一番最初にあって、それに合わせて、エサの量や、水換えを調整できるようになると良いと思います。水質の数値も、それを目標にするのではなく、あくまでも魚が元気なときの状態がそれだったという意味でしかないと思います。たとえ、ある日、他の数値を示しても、魚たちが元気であれば、数値をわざわざいじる必要はないと思います。もちろん、数値が変わったことには理由があるはずですから、それは突き止めておいた方がよいですし、それが異常な状態であるならば、対策は必要ですが、それでも、数値を見る前に、魚たちの様子を見ながら行うべきだと思います。



■人の言うことは…
 インターネットというメディアのおかげで情報収集がとても簡単になりました。でも、その代わりに情報が氾濫することにもなっています。そして、掲示板に限ってみると初心者の方が迷われる(困る)場合が見受けられるように思います。例えば、「水質が悪化して魚が次々と死にます、どうすればいいでしょうか?」と質問したときに、毎日水を取り替えてくださいと言われたとします。でも、実際には仕事などで毎日の水換えなどできない場合もあるでしょう。その時には別の選択肢もあることが多いです。上の例では、活性炭などを入れるとか、水量を増やすとか、質問した方にあった解決法がある場合もあります。ですので、一人の意見だけに耳を傾けるのではなく、いろいろな人の言うことを聞いてみたり、様々なサイトを巡って情報を集めたり、自分で考えてみたりするのもとても大切なことと思います。



■ちょっとしたことなんですけど
 意外とちょっとしたことに気を使うだけで、大きな災厄を免れることは良くあります。例えば、水温計。毎日見ましょう。普段見慣れているとついつい見なくなりがちですが、加温が必要な熱帯魚にとって水温の低下(や上昇)は死活問題です。水温による魚のトラブルって、意外と多いものですが、それが水温計を見るというちょっとしたことで回避できる場合があります。濾過装置から水が漏れていないかとか、止まっていないかとか、ちょっと見るだけで確認できることは多いです。そのちょっとしたことに目がいくかどうかが、ステップアップの鍵なのではないかと思います。



■自信、持ちましょう
 よく、初心者だからといって、自分の水槽のことをけなす方がいらっしゃいます。確かにベテランの方のように綺麗な水槽じゃないかもしれません。病気やコケがでていて大変だったりするかもしれません。でも、そこで魚たちがしっかりと生きている以上、それは自慢しても良い水槽だと思います。あなたの水槽は世界に一つしかありません。あなたがそれを一番だと思わなかったら、せっかく居てくれる魚たちがかわいそうです。自信を持ちましょう。そうしたら、疲れているときの水換えとか、つらいと思うお世話も放棄しないでがんばれるようになると思います。「こんな水槽のために…」なんて思ったら絶対にできないことです。「この水槽は一番なんだから」って思ったら、それをしっかり維持していこうと思うと思います。
 最後はちょっとお節介なお話でしたね。でも、これって重要だと思います。ちなみに、私は自分の水槽、大好きですよ。


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